死ぬまでに読みたい本

読んだ本や観た映画の感想です

高峰秀子主演の映画。予想外のおもしろさ。

森鴎外の原作は未読だが、これを観たら読みたくなった。たしか、学生時代に読みかけて挫折した記憶があるんだけど。

無縁坂とか不忍の池が出てくるのは知ってたけど、映画の中の不忍の池は、どこの村はずれかってくらいのさびしい場所。明治時代の不忍の池は、ほんとうにこんな風だったのかな。この映画は1953年に撮られているけれど、時代考証なんかはどのくらい正確にやってるものなのかしらん。

それにしても、高峰秀子が出ている映画はたいていおもしろい。いい作品に出てるってことなんだろうけど、高峰秀子が出るからいい作品に仕上がっているんだろうな。最初はそんなに好きじゃなかったのに、出演作品を観るたびにどんどん魅力的に思えてくる。まさに大女優の名にふさわしいオーラと演技力だと思う。

物語はというと、とにかく哀しい。最初に登場するやり手婆みたいなおばさんの性悪さと末造の小人物ぶりは、観る者が生理的な嫌悪感を覚えるよう、それはそれは気持ち悪く描かれているし、お玉の父親の冷たさや、階級社会の構造、受け身なお玉の弱さなどを見せられるにつけ、ひたすらやりきれない気分になる。最後、後先を顧みずにつっぱしったお玉の表情が、哀しくもすがすがしく見えたのだけが、ちょっぴり救われたけど……。

でも、どうなんだろう。森鴎外はこの作品で何を訴えたかったのかな。過去の文学や映画の女性の描き方って、どうしてもフェミニズム的価値観で批評してしまい、その時代の制約を考慮に入れて……なんて寛大な気持ちにはなれず、苛立つことが多いんだよね。でもやっぱり、イライラしながらも観てしまう、読んでしまう。魅力を感じるのは今の作品より圧倒的に昔の作品という矛盾。

とりあえず、鴎外の原作を読もうと思った。